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ネジ職人Cさんを私はクビにするべきか

お風呂に入りながらずっとネジ職人のことを考えていた。
このエントリーだ。

syakkin-dama.hatenablog.com


このエントリーにネジ職人のことが書いてある訳ではなく私が勝手にネジ職人の妄想に飛んで行っただけだ。
そのストーリーとはこうである。

私はとあるネジ工場の工場長だ。
ネジ工場にはネジ職人A、B、Cさんがいる。

現状のネジ工場

Aさん:8時間のネジ生産数 20本
Bさん:8時間のネジ生産数 10本(平均レベル)
Cさん:8時間のネジ生産数 5本(ただし残業1時間で5本のネジを生産する)

この場合、私はCさんをクビにするだろうか。
おそらく、しないと思う。

新しい人を入れてまた一からネジの作り方を教えるのは大変だし、1時間の残業で問題ない本数のネジを作ってくれるなら、まあそれでもいいかな、と思う。

ただし、それはCさんが「必ずリカバリしてくれる」ことが前提となる。
「今日はリカバリできませんでした」となった場合、Cさんのネジ生産量は1日5本に留まる。これは困る。
なので、クビにはしないが「できるだけ8時間で終わらせてね」と言う事と、「必ずどこかでリカバリしてね」と言う事は、お願いすると思う。

残業ゼロになったネジ工場

Aさん:8時間のネジ生産数 20本
Bさん:8時間のネジ生産数 10本
Cさん:8時間のネジ生産数 5本

本社から残業ゼロの通達が来て、機械が8時間きっちりで止められてしまうことになった。
これはCさんにとってキツい。
件のエントリーで懸念していたのはこう言う点だと思う。「もう2~3回バット振らせてもらえませんか」と言う気持ちも良くわかる。

こうなると、私としてはもうCさんを置いておくわけにはいかない。
申し訳ないがクビにさせてもらう。

ただ、ここで一つ発見があったのは、これは工場長からしても打撃だと言う事だ。
今までは、1時間の残業があったとは言え1日10本のネジをCさんは生みだしていた。
新しい人が何本ネジを生産できるかは分からないが、新しい人が1日7本しかネジを作れなかった場合、1日の生産数は減る。
今まで10本作れていたネジが減る可能性があるのは工場長としてもキツい。
残業を減らすと言う事は、こういうタイプの職人を抱えていた場合にマイナス方向に働く可能性もある。

生産数ベースのネジ工場

時間という縛りではなく、ネジの本数と言う縛りにしてみる。
「1日10本作ったら帰っていいよ~」と言う方式だ。

Aさん:4時間で帰れる
Bさん:8時間で帰れる
Cさん:9時間で帰れる

能力の高かったAさんに、圧倒的メリットが出てくる。
Bさん、Cさんは今まで通りだ。
Cさんも今まで通り10本のネジを作ってくれているのでクビにはしない。

一見理想的な形に見えるが、工場長から見ると大打撃だ。
何も言わずに1日20本ネジを作っていたAさんが、10本で帰ってしまう。
1日のネジの生産数は40本から30本に減少する。
ネジ職人からしたら嬉しいシステムだが、工場長としてはおそらく採用しないと思う。
ここが労働者と経営者の意見がなかなか一致しない原因のひとつでもあるのだろう。

給料ベースのネジ工場

次に、給料ベースで考えてみる。
今まで同じ給料だったものを歩合制にする。ネジ1本につき1000円。

Aさん:8時間で2万円
Bさん:8時間で1万円
Cさん:8時間で5千円(残業1時間で5千円)

これが、一番理想的ではないだろうか。
これならCさんもクビにならないし、ネジ職人たちの不公平感は無くなるだろう。(特に1日20本作ってたAさん)
ただし、Cさんは残業できるかどうかに生活がかかっているので、ここに残業ゼロが組み合わさったら一気に詰むことになる。

給料ベース+残業ゼロと言う労働者にとっては理想的とも思える形を取ると、苦しくなるのはCさんだけと言う非情な結果になることがわかる。

工場長から見ると、Cさんの減給分をAさんに乗せる形になるので損でも得でもない…ように見えるが、実際はそうでもない。
現実的には最低賃金がある以上Cさんの給料を下げるにも限度はあるし、Cさんの減給分では、きっとAさんの昇給分を補えないだろう。成果と給料を正しく比例させた場合、結果的にコスト増になる可能性が大きい。
また、ネジ工場以外の職種の場合「誰がどれだけ生産したか」を測るのは非常に難しいだろう。

ネジ職人の生き方

各ケースで「私が工場長だったらネジ職人Cさんをクビにするか」と言うことを考えてみたが、結果としては「残業ゼロ」の場合のみ、明確にCさんをクビにする(せざるを得ない)と言う結論になった。

残業ゼロを叫ぶ声が大きくなればなるほど、Cさんのような人たちが危機感を感じる理由はよくわかったが、現状Aさんのような人たちが割を食っているのもよく分かった。また、CさんがAさんと同等の成果を目指してしまった時、Cさんは身体に支障を来たす程の長時間労働になってしまう可能性がある。

会社側の立場で考えれば、優秀なAさんを優遇したいし、労務上のリスクも負いたくはない。やはりCさんを中心に制度を考えるのは難しいと思う。

だが、Cさんをクビにするのは(少なくても今回のケースでは)「残業ゼロ」の場合だけだ。裁量労働制や業務委託など、残業という概念が存在しない働き方もある。残業においてのみハイパフォーマンスな人は、こういった働き方で活躍することが可能ということだ。

働き方を選ぶということは、働く場所を選ぶということでもある。適性の無い働き方を辞めて、自分に適した働き方が出来る場所を選ぶと言うのが、Cさんが一番楽に生きられる道なのかもしれない。